高速スカ・パンク・バンド OVER LIMITが、今年結成20周年のアニバーサリー・イヤーを迎える。今回はこれまでの歩みを振り返り、これから先の道を指し示すベスト盤『THE BEST』を発表。スカ・パンクから歌モノまで、英語も日本語も自在に使いこなす稀有なバンド・スタイルをギュッと凝縮した1枚に仕上がっている。今作のテーマはずばり”ライヴ”で、楽曲セレクトや作品トータルの流れまで計算された聴き応え十分のベスト盤と言えるだろう。1曲まるごと再録した楽曲や、一部録り直した楽曲もあり、現在のバンド感も味わえる今作について、MASAYA、GUSSANのふたりに話を訊いた。

-今作は結成20周年を記念したベスト盤になりますね。

GUSSAN:集大成みたいな感じですね。今年は年間通して、3枚リリースしたいと思ってたんですよ。いままで年間3枚のリリースはやったことがなかったし、無茶してみたいなと。5、7月とシングル(会場限定盤『The biggest summer in my life / senritsu』、全国流通盤『Calling me』)を出して、全部新曲だったんですけど、今回は期待を裏切って、フル・アルバムじゃなくて、ベストを出そうと思ったんです。

-このタイミングで改めて自己紹介したい気持ちも?

MASAYA:自分たちの推し曲を入れているから、この1枚でOVER LIMITがどんなバンドかわかってもらえるかなと。新しく聴く人にも、昔の曲にも触れてほしいですからね。

-ベスト盤はバンドによって絶対出したくないという人もいますが。

MASAYA:全然大丈夫です(笑)!

GUSSAN:廃盤で、欲しいと言われても出せない作品もあったから、いい機会かなと。

-今作を作るうえで考えていたことはありますか?

MASAYA:TAKEさん(レーベル代表/SHACHI)にライヴでやらない曲を入れない方がいいと言われて。じゃあ、ライヴでガンガンやっていく曲を1枚にまとめようと。曲数もほんまはもっとたくさん入れたかったけど、”そんなにいらなくない?”と言われて、たしかにそうやなって思ってやめました。

-ライヴというテーマがあったから、選曲はやりやすかった?

MASAYA:そうですね。どれもライヴでやる曲ばかりだし、あと、今後ライヴでやろうと思う曲も入れてます。

-過去を振り返りつつ、未来に向けた内容なんですね。

GUSSAN:そうですね。今回はバラード曲がないし、一緒に手を上げて、ノれる曲ばかりですね。アップテンポのベストになってるかなと。

MASAYA:歌モノの曲でも、一緒に歌えたり、ノれるものを収録してます。がっつりスカ・パンクしてる曲と交ぜても、あまり違和感もなかったし。前シングル(『Calling me』)でも、英語と日本語を2曲ずつ入れても、OVER LIMITや! と思えたから。自信を持って、ベストでもそういう交ぜ方をしました。21曲あるけど、バーッと聴けるかなと。

-全部録り直した曲は「青春切符」、「蝉」、「さよなラビット」の3曲ですよね?

MASAYA:これは大人の事情で、前は違うところから出していたので録り直すことになりました。歌モノはほんまに難しかったです。ノリで録れないし、年齢を重ねるとしゃがれ声になるので、ピッチも取りにくくて(笑)。でも、昔じゃ出せなかった歌声を出せたと思います。歌声にニュアンスも出せるようになったから。

GUSSAN:当初録ったときはギターを何本も重ねていたけど、今回はよりライヴに近づけるために、あえて省いてシンプルにしたので聴きやすくなったと思います。どこを聴かせたいのかが明確になりましたね。

-全部録り直した曲で一番変わったのは?

MASAYA:「蝉」ですね。歌もブツ切りに録っていたけど、今回はほぼ一発録りに近い感じでやったんですよ。

GUSSAN:「青春切符」のドラム・パートは今年1月に新しく入ったペーター(Dr/Cho)が彼なりに考えたフィルを入れたので、リアレンジした部分もあります。

MASAYA:時間があれば、本当は全曲録り直したかったんですけどね(笑)。今も47都道府県ツアー(”OVER LIMIT 47都道府県ツアー”)中だから、時間もなくて。

-「さよなラビット」もすごくいい曲ですね。曲名のネーミング・センスも世代が表れてます。

GUSSAN:”さよなラッキョ”みたいな(笑)。

MASAYA:マジメな歌なんですけど、そこはギャップですね。

GUSSAN:キャッチーだし、シンガロングできる曲かなと。ほかのアルバムにも入れてなかった曲だけど、ライヴでは最近ずっとやってますからね。ケミカル?リアクションというアイドルがカバーしてくれて、それで僕らの名前もアイドル界に広がって、アイドル・オタクのお客さんから、”あの曲をやってほしい!”とか、”音源が欲しい!”とかいう声を貰うようになりました。廃盤で手に入れることができなかった曲なので、再録という形ですが新たに手に入れることが可能になって嬉しいです。ちなみにそのケミカル?リアクションも12月7日に「カメレオン」、「さよなラビット」のカバーCD(『カメレオン』)をリリースするんですよ。お互いのフィールドを越えて、いい作用が起きればいいなと。

-今後のライヴでやろうと思っている曲というのは?

MASAYA:それが「青春切符」、「蝉」なんですよ。「さよなラビット」と同じで、廃盤の作品に入っていた曲ですからね。今回聴いてもらって、一緒に歌ってもらえたらいいなと。なので、廃盤の作品からその3曲を選びました。

-一部録り直した曲は「meaningful love」、「Dancehall Punk」ですよね?

GUSSAN:「meaningful love」のベースに関しては当時はスラップだったんですよ。ライヴも全然違う感じなので、もう一度録り直したくて。

MASAYA:今のベースはピック弾きなので、そのフレーズを変えたんですよ。

-”アタタタッ”と叫んでいるパートも面白いですね。

MASAYA:それは”北斗の拳”です(笑)。自分が嫌な人間に対して、攻撃している曲なんですよ。

-今作の中でも遊び心があり、いいフックになってますね。

MASAYA:3拍子だし、ライヴでも特に盛り上がる曲ですからね。

GUSSAN:「Dancehall Punk」も余計な音を入れすぎていたから、もう少しシンプルにした方が気持ちいいかなと。それは数年前から思ってました。

-なるほど。作品トータルで重視したポイントはありますか?

GUSSAN:全部ミックス、マスタリングをやり直したいなと思ったんですよ。昔と今の音源を比べると、昔の音源はギターの歪みが前に出すぎたり、足りなかったりしたから、今の解釈でやってもらいたくて。エンジニアさんは今の時代に合った音にしてくれるので、新しい音源のつもりでミックスしてもらいました。ライヴにより近い感じを出してもらいたかったんです。今回完成したものを聴いたら、音もクリアになったし、エンジニアさんと一緒にいい仕上がりにできたと思います。

MASAYA:OVER LIMITらしさをこの1枚で感じられる作品になったと思います。自信を持って出せる1枚ですね。バラードとかを入れてしまうと、また雰囲気が変わると思うので、なるべく凸凹感が出ないように意識しました。

GUSSAN:あと、MASAYAがすべて作詞作曲しているので、MASAYA節があるから、散らばって聴こえないのかなと。そういう意味で統一感もあると思います。

MASAYA:ただ、曲順を決めるのが難しかったですね。自分はもういいやと思って……みんなに委ねようと。最終的には自分も意見は言ったんですけどね(笑)。最初はどれがいい曲なのかわからなくて。

-自分の曲はなかなか客観視できないですよね。

MASAYA:そうなんですよ。自分の中でこの曲はいいな、とランクづけはできるけど。どれもかわいい曲ですからね。

GUSSAN:残りのふたりのメンバー(JUN/Ba/Cho、ペーター)は最近入ったので、まだ客観視できるかなと思って”君らふたりに任せるわ!”と言ったんですよ。でもそのメンバーふたりもわからないと言うんで。

MASAYA:2曲あって、どっちがいい? という選択はふたりに任せました。あと、この曲を2曲目に持っていきたいけど、どう思う? って。僕は21曲のワンマン・ライヴをイメージしました。勢いを止めないような流れにしたいなと。

-2曲目に「青春切符」のような歌モノがくる流れがいいですね。OVER LIMITらしいなと思いました。

MASAYA:僕は「蝉」かなと思ったけど、”絶対「青春切符」の方がいい”と(GUSSANから)言われて。

GUSSAN:今回は曲数が多いから、真ん中や、後ろあたりにそういう歌モノの曲を入れたら、印象がボケるかなと思ったんですよ。試聴したときに”なんやこの曲!”って思ってもらえたら発見があっていいかなと。

-1、2曲目を聴いただけで、OVER LIMITというバンドの全体像がわかりますもんね。ほかにこだわったところはありますか?

MASAYA:歌で始まるような曲がいいなと思って。パッと聴いて、歌と演奏が同時に耳に入ってくると、バンドの絵が浮かんでくるじゃないですか。今回は21曲もあるんで、1曲目の「I say it be O.K.」を歌と演奏で始まる曲にして。あと、最後を締めくくる「カメレオン」から「T.F」への流れは、あえて歌モノのあとに激しい曲がくるようにしました。ライヴでもたまにこれで終わりますよと言ったあとに、ショート・チューンで締めることもありますからね。

-最後に俺たちスカ・パンク・バンドですよ、と印象づける締めくくりですね。これはライヴ経験を積んだバンドじゃないと出ないアイディアだなと思います。そして、今作の中に高速スカと歌モノの曲が交ざり合っていることで、両方の魅力が際立って聴こえます。

MASAYA:歌モノは俺がJ-POPをずっと聴いていたから、それが出ているのかなと思いますね。曲調や歌詞にもドラマ性がないと、日本語でやっている意味もないし、それはスカ・パンクでは出せないものだから。

GUSSAN:逆にショート・チューンの美学みたいなものがあって、もう1回サビが欲しいけど、ここで終わり! ってスパッと終わるっていう。

-さらに聴きたい気持ちを刺激されますね。スカ・パンクをやりながら、歌モノの曲をしっかり聴かせられるバンドは本当に少ないと思います。

MASAYA:そう言ってもらえると、嬉しいですね。これからライヴでも言います、”こういうバンドはいないよ!”って。

GUSSAN:ははははは(笑)。

MASAYA:たしかに自分たちに似たバンドはあまりいないかもしれないですね。ただ、スカ・パンクと歌モノを交ぜるのに時間はかかりましたからね。その魅力をこのベストで最大限に見せられたらいいなと。どちらも中途半端に聴こえないように、しっかりやり切らないと意味がないですからね。

-今作の中で特に思い入れのある楽曲はありますか?

MASAYA:「カメレオン」は曲作りにめちゃくちゃ時間がかかったんですよ。歌詞も何度も書き換えましたからね。「さよなラビット」は30分くらいでできた曲なんですけど。

-そうなんですか(笑)!

MASAYA:「さよなラビット」は歌詞、メロディ、構成がババッと降りてきたんです。「さよなラビット」は「カメレオン」と似た位置にある曲調ですからね。一発で出てきたフレーズって、聴いた人の頭にも残りやすいと思うんですよ。自分がすぐに忘れてしまうメロディは出さないようにしているから。その意味で「さよなラビット」は覚えやすい曲かなと思います。

-「さよなラビット」はキャッチーですからね。でも「カメレオン」は時間を要したと。

MASAYA:歌詞に一番時間がかかりましたね。亡くなった人に向けた曲で、その追悼ライヴまでに歌詞を作って、人に伝わるようと書こうと思ったら、書けなくなって。最初は長文じゃないと(想いを表現するのは)無理だと思ったけど、わかりやすく凝縮して、前向きな歌にしたかったんですよ。亡くなった人の曲だとわからないものにしたいとか、いろいろこだわったから、この曲は思い入れが一番強いかもしれない。歌っても気持ちが入りますからね。

-当時と比べて、今はまた違う心境で歌えてます?

MASAYA:当時は悲しくて歌えなかったです。今は愛情の曲として歌ってますからね。その人のために作ったけど、前向きな歌を心掛けてますからね。みんなに向けて、力強く歌っているつもりです。

-MASAYAさん自身が時と共に前向きに歌えるようになったんですね。当時はライヴでも披露していたんですか?

GUSSAN:当時は推し曲だったので、ライヴでもやっていたけど、今とはまったく曲調が違いましたね。

MASAYA:すごく重たい曲だったんですよ。

GUSSAN:歌詞の中で”君の居ないこの世界で 君の分も笑うから”という言葉があるんですけど、今はその部分を押し出しているのかなと。当時はみんな泣いてて、大合唱もなかったんです。

-そんなに反応が違ったんですね。

MASAYA:だけど、次第にみんなが歌うようになったので、この人たちは歌詞の意味をわかっているのかな? って。でもこんなに楽しそうに合唱してくれるんだなと思って、徐々に明るい曲に変わりました。

-いい話じゃないですか。お客さんに気づかされた曲だと。

MASAYA:そうですね、今じゃダイブする人もいますからね。

-GUSSANさんの思い入れの強い曲というと?

GUSSAN:「カメレオン」もそうですが、「meaningful love」、「let’s go to city」とかはまさかここまでドーンと盛り上がる曲になるとは当時思わなくて。ライヴでやるうちにお客さんにも広まって、爆発するような曲になったんです。今回は化ける要素のある曲ばかりを並べているので、知らなかった曲も聴いてほしいですね。昔やっていた「IN MY SPACE」、「MAYBE」は最近やってなかったので、これを機にライヴでもやりたいです。

 

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